こんにちは。事業開発室の小出です。
昨今の働く環境の変化に伴い、オフィスの在り方についてご相談をいただく機会が増えてきました。今回は新たなオフィスの設備として検討されることの多い「フリーアドレス席」について考えてみたいと思います。
01. コロナ禍によるフリーアドレス需要の再燃
フリーアドレスという考え方自体は、10年以上も前から新しいオフィスの在り方として話題にあがっていました。社員各自が自分の好きな場所で仕事ができる、他部署のメンバーとのコミュニケーションが円滑になることで新しいアイデアが生まれる、とその期待効果が高らかに謳われましたが、残念ながら一部の企業を除き、定着には至りませんでした。IT環境がまだ十分に整っていなかったなど理由はありますが、主にはその働く場所を選べるという自由さによって、通常業務のコミュニケーションが阻害され、組織としての生産性が落ちてしまった(あるいはその危惧が払拭できなかった)ことが原因と思われます。
そんな経緯はありますが、コロナ禍という災厄をきっかけとしてリモートワークが普及し、今あらためてフリーアドレスが注目されるようになっています。
02. リモートワークの普及により閑散としたオフィスが増加
今、フリーアドレス化の検討を推し進めているのは、社員の出社率低下によるオフィスの閑散とした状況ではないでしょうか。オフィスの維持には大きなコストがかかります。経営的観点から考えて、閑散としたオフィス状況を見逃すわけにはいきません。多くの企業で、固定席を廃止して一定の出社率を前提としたフリーアドレスに移行することを検討しています。固定席をフリーアドレスに移行することによって、余ったスペースに会議室やオンライン会議用ブースを設置することや、ビルの集約を進めオフィスコストの削減を目指しています。固定席を廃止しフリーアドレス席を導入することによってオフィスコストを削減することは、経営からも社員からも合意を得やすい施策です。しかし安易にコスト削減を目的としてフリーアドレス席を導入するのではなく、その本来の目的をしっかり考えて導入することが必要です。
03. フリーアドレスに対する社員の不安
フリーアドレスに対する社員の不安は下記のようなものがあると思います。
- 円滑な対面コミュニケーションができない
・同じ部署の同僚がどこにいるかわからない、上司に相談しにくい。
・新人と席が離れてしまいOJT指導がやりにくいなど。 - 社外からの利用状況がわからない
・席が空いているかわからない。
・誰がいるかわからない。
・密な状況は避けたいが、混雑度がわからない。 - 現地での席の状況がわからない
・使っている気配はあるが、人はいない。
・どの席を使っていいかわからない。 - 集中できない
・雑談が多く、自分の仕事に集中できない。
・自チームのメンバーの状況がわからず配慮ができない。 - 自席がなくなることに対する漠然とした不安がある
・毎日、席を選ぶ行為がストレスである。
・結果的に毎日同じ席に座ってしまう。
以前のフリーアドレスは、自席がある前提で導入されるケースが多かったのですが、昨今では自席の代わりにフリーアドレスを導入する企業が多いのでフリーアドレスに慣れない、違和感を感じている社員もいらっしゃるのではないかと思います。
04. フリーアドレス導入に対する管理者の不安
フリーアドレスの導入に対して、現場の管理者も下記の不安があると思います。
- 自チームに必要な座席数の判断ができない
- メンバーが求めている席の形態(個別席、オンラインブースなど)がわからない
- 業務効率が落ちるのではないか
- 自チームのメンバーがどこでなにをしているかわからない
05. フリーアドレスを検討する際に念頭に入れておくべきこと
前述のとおり、安易なフリーアドレスの導入は業務やマネジメントを滞らせ、結果的に組織や業務の生産性、効率性を損ねてしまします。フリーアドレス化を含むオフィスの改革の目的は、あくまで組織生産性の向上であるべきです。自席の代替としてフリーアドレスを導入する場合はより一層そのことを意識する必要があります。

06. フリーアドレスを導入する目的 (例)

07. フリーアドレス導入にあたって
フリーアドレス導入の際には、経営としての「導入の目的」をしっかり説明し、社員の意識改革を促す必要があります。
最終的な目的である「組織としての生産性を高めること」はフリーアドレスの設置だけで実現できるものではないですが、オフィスコストの削減だけが目的でないことをしっかり伝えることが重要です。
08. フリーアドレス導入のステップ
フリーアドレスは社員の意識や業務プロセスの変化にあわせて活用度が増していくものですので、下記のプロセスで徐々に展開していくことで、導入の目的や効果を見失わず、導入に対するギャップを抑えながら進めることができると思います。
- 試験的導入
・小さな部署で実施しても検証にならないため、できれば複数部署が同居するフロアごとに展開する
・フリーアドレス席だけではなく、目的別設備(集中作業室、オンライン会議ブースなど)も用意する - 利用分析
・設備全体の利用率を測定し、必要なフロアスペースを特定する
・設備別の利用度を測定し、不要な設備がないか、不足している設備がないかを特定する - 計画的展開
・必要な設備、数を見極め調達、削減する
・フロアのレイアウトを検討する
・フリーアドレスが適用できる部署を検討する
09. 管理のしすぎがフリーアドレスのメリットを奪う
フリーアドレスを最大限に活用するためには、前述の点をふまえ、フリーアドレスの自由度と管理(制約)のバランスをとることが重要です。不安ばかりが先行し管理を強化すれば、本来の目的であったフリーアドレスのメリットが享受できなくなってしまいます。
今はフリーアドレスを管理するサービスも多々ありますので、それらを使って下記を実現し、継続的に見直しを図っていくことが有効利用につながります。
- 利便性の高い予約方法
・求める環境が事前に確保できる
・位置指定ができ、希望の席が確保できる
・混雑状況をみて利用の判断ができる - 利用状況の共有
・過去、現在、未来の混雑状況、誰が来ているかなどを共有する - チェックイン・チェックアウト
・空席か使用中かがわかる
・予定より早く終わった場合、席がリリースできる
・誰が使用しているのかわかる - 利用ルールの反映ができる
・予約できる席、予約できない席の設定ができる
・使える席、使えない席(密のコントロール)が設定できる
・占有席の設定組織で占有、プロジェクトで占有など利用権限の設定ができる
・利用時間の制限ができる
・予約開始日の設定ができる など - 利用データの収集、分析
・フリーアドレスの使い方を分析するためのデータが収集できる
・収集したデータが利用ルールの見直し、設備計画の根拠として活用できる
10. フリーアドレス席を有効利用するための柔軟な運用を!
フリーアドレスは自分自身で場所を選択できることが大きな魅力ですが、管理をせず自由に有効利用をすることは難易度が高いです。利用者の自由さを守りつつ、設備としての管理をおこない、データを収集し、その分析に基づいて有効利用のためのPDCAを継続的にまわしていくことが必要です。とはいっても、設備そのものは簡単に変えることはできません。だから利用ルールなど含めて運用を柔軟に変える必要があるのです。
環境の変化も、働き方の変化も予測がつかない昨今の状況の中で、オフィス設備を検討するのはとても大変です。しかし、オフィスの存在は組織生産性向上のために重要な要素となりますので、変化することに対して臆さず前向きに検討していただければと思います。